エンジンブレーキ

いつの頃だったか覚えていないほどの昔の記憶だが ちょっとした峠道の下りを誰かが運転する車の助手席に乗せられて走っていたときのことだ

その運転者(本当に誰だか覚えていないのだが……)は下り道の自然な加速に逆らうために ドヤ顔で……それはもうこれ以上は無いという程のドヤ顔で……ギヤをシフトダウンした
エンジンの回転も合わせずに……である

当然 エンジンもミッションもぎょわわわわ!と言った悲鳴を上げて 車は不安定に減速する
勾配が緩やかになるとシフトアップして カーブが近づいたり勾配が急になったりするとまたシフトダウン

本人はとても運転が上手いつもりらしいのだが 結論から言うと めちゃくちゃ遅いし不安定な運転だった

その運転に対して意見を言った記憶がないので 運転者はおそらく私に対して年上で意見を言ったらマズい立場の人だったのだろう

自動車教習所では「坂道などではエンジンブレーキを使いましょう」といったことは教えられるので その運転は単純に間違いではないのだが それをちゃんと理解していないまま公道に出ている人が少なくないと感じることがけっこうある

車の速度を減速したり停止したりするのはあくまでフットブレーキの役割で エンジンブレーキというのはアクセルを離したらエンジンが回転を落とそうとする時の抵抗を利用している技術的な工夫に過ぎない
決して「エンジンブレーキ」なる機構が備わっているわけではないのだ

例えば1960年台ぐらいの車ならば ほとんどの車のブレーキはドラム式で熱に弱く 使いすぎればすぐフェード現象が起きたと聞くし 当時のブレーキフルード(所謂ブレーキオイル)の性能も今に比べたら熱に弱かっただろう
そんな時代にエンジンブレーキを利用して速度を安定させるのは有効な手段だし ブレーキの性能が上がった今でもそれは変わらない

何が問題なのかというと エンジンブレーキをブレーキの保護のために積極的に使うという人がいるということだ

エンジンブレーキは 例えば下り坂のように 自然に速度が上がってしまう場合の速度調整に利用するのが本来の使い方で 積極的な減速のために使うべきではない
だいたいにして 減速の加減を調整しづらいし 駆動輪だけに効くブレーキは路面状況やスピードによっては危険だったりもする
フットブレーキは4輪全部にかかるし踏み方で細かい調整もできるから 出すぎた速度を調整したり コーナー手前での車体の姿勢を直したりもできる

だから定義めいたことを言えば 速度の調整や停止はフットブレーキで行い エンジンブレーキは速度の調整と割り切るべきだと思うのだ

さらに最初に書いたようなエンジン回転も合わせずにエンジンやミッションが悲鳴を上げるようなシフトダウンした場合は エンジンだけじゃなく駆動系の部品やディファレンシャルギアやハブなど いろんな場所に過大な不可がかかる
これらが不具合を起こした場合の交換費用はブレーキパッドの交換の何倍もかかると思ったほうがいい

とは言っても 下り坂を走るときにエンジンブレーキを使うなという話ではない

適切なギアでエンジンブレーキが効いた状態で走り コーナー手前や勾配の変化に応じてフットブレーキで速度調整し 必要な場合は加速もする……というのが安全でしかも早く移動できる手段だと思う

いちばん良くないのはブレーキペダルに足を乗せたまま 緩いブレーキをずっとかけ続けていることだ
その状態はブレーキはたいして効いていないのに熱くなってしまうし 心理的にも不安がいっぱいな状態だろう

また 減速しないでコーナーに飛び込んでからブレーキを踏むというのもよく見かける光景だが これはものすごく危険な動作だと知っておいてほしい

今の車やタイヤの性能だと コーナリング中にブレーキを踏んだからといって簡単に吹っ飛んだりはしないが もし路面状況が悪かったりしたらけっこうヤバい
雪道や凍結路だったら簡単に吹っ飛ぶ行為なのだ

まあ 路面が大丈夫でも二輪車だったら簡単に吹き飛んでしまうと言えば分かってもらえるだろうか

それにこういった運転は危険以前に「同乗者を車酔いさせやすい運転」だと思ってほしい

コーナーが迫ってる状態でしっかりブレーキを踏むのは 速度を下げるのと同時に車の姿勢を安定させるという意味もある
車酔いをする状態は左右と上下 さらに前後にも頭が揺さぶられるのが原因だと思うが その全部が同時に(あるいは連続的に)襲ってないかぎり案外耐えられるものだ
コーナー手前での減速は 基本的に前方向へのGしかかからない
そしてそこからコーナリングを始めれば斜め前方向のGに移行して コーナー途中から加速に移れば後ろ方向へのGになってシートに元通り収まることになる

ここらへんが分かってる人の運転だと けっこう飛ばしているのに同乗者は怖くないと感じるし 逆の場合はそんなに速くないのに怖いことになる

中には峠道などでブレーキを踏むことを恥だと思ってるっぽい人がいるようだが ブレーキを踏むのは恥ではないし 結果的に安全に目的地に到着できるのが一番だ

長々と書いたわりには中身の薄い話になってしまった
エンジンブレーキとフットブレーキは目的に合わせて正しく使い分けましょうと言いたかったのだが 回りくどくなってしまったかもしれない


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